NonFIT(非FIT)太陽光発電所は、固定価格買取制度(FIT)に依存しない新しい再生可能エネルギーの形として注目を集めています。制度の転換期を迎える中、企業や自治体はより柔軟で自立した電源確保手段としてNonFITモデルに期待を寄せています。本記事では、その仕組みや活用モデル、現在の課題、そして今後の展望と競争力強化戦略について、最新の情報を交えて詳しく解説します。
目次
NonFITが生まれた背景と制度の変遷

2012年に開始された固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギー普及の起爆剤となりました。中でも太陽光発電は急速に拡大しましたが、導入から10年以上が経過し、政府は再エネを「主力電源」として市場原理の中で自立させる方向へシフトしています。
その結果、FITによる買取価格は段階的に引き下げられ、制度申請の要件も年々厳格化されています。このような制度の変化に対応するかたちで登場したのが、NonFIT太陽光発電所です。これは、FIT制度を使わずに発電した電力を自家消費や電力市場で活用するモデルであり、補助金や制度に頼らない持続可能で競争力のあるエネルギー供給手段として期待されています。
NonFIT太陽光発電の活用モデルとその多様性

NonFIT太陽光発電所は、固定価格買取制度(FIT)に依存しないため、電力の使い道や売電先を自由に設計できる点が大きな特徴です。これにより、導入目的や事業環境に応じた多様なビジネスモデルが展開されています。以下では、代表的な活用モデルを詳しく見ていきます。
1. 自家消費型モデル:電気料金削減と環境経営の両立
最も基本的な活用方法が、自社の施設で発電した電力を自ら消費するオンサイト自家消費型です。昼間に電力を多く使う工場やオフィスビル、物流拠点などでは、電力会社からの購入量を削減でき、電気料金の削減効果が高い点が魅力です。
特に電気料金単価が高騰している現在、発電した電力を「自分で使う」方が「売る」よりも経済的メリットが大きいケースが増えています。また、二酸化炭素排出量の削減につながるため、ESG経営やRE100対応にも直結します。
2. オンサイトPPAモデル:初期投資ゼロで再エネ導入
オンサイトPPA(Power Purchase Agreement)は、発電設備の所有・設置・保守を第三者が行い、需要家(企業)は電気だけを購入するモデルです。需要家は初期費用なしで再エネを導入でき、長期的な電気代の安定化が見込めます。
発電事業者にとっては、企業と長期売電契約(10〜20年)を結ぶことで収益が確保でき、ファイナンスの面でも有利に働きます。オンサイトPPAは、電力消費が大きいものの資本支出に制約がある企業にとって、有力な選択肢です。
3. オフサイトPPAモデル:遠隔地からの再エネ調達
オフサイトPPAは、遠隔地に設置した太陽光発電所で発電した電力を、送配電網を通じて企業に届けるモデルです。都市部のビルや敷地面積の限られた施設でも、地方の広い土地を活用した太陽光発電所と契約することで、再エネ調達が可能になります。
このモデルでは、自己託送制度やFIP制度(フィード・イン・プレミアム)の活用によって、経済的メリットを高めることができます。再エネを活用しながらも立地条件に左右されず、電力のトレーサビリティも確保できる点が評価されています。
4. 電力市場連携モデル(スポット・アグリゲーション)
NonFITモデルの中でも、市場価格を活かした電力取引所(JEPX)連携型は、発電量の一部または全量を卸市場で売電する形態です。特に、価格変動の激しい電力市場においては、発電タイミングの最適化やアグリゲーションによって収益性を高める戦略が求められます。
また、蓄電池と組み合わせたピークシフト運用や、デマンドレスポンスとの連携により、市場価値の高い時間帯に電力を供給することで収益の向上が期待されます。ただし、市場価格の変動リスクを管理するノウハウやシステムが必要になるため、中小事業者はアグリゲーター(需給調整代行事業者)との連携が現実的な選択肢となります。
5. 公共・地域連携型モデル:脱炭素と地域経済の両立
近年では、自治体や地域新電力との連携によるNonFIT活用も拡大しています。たとえば、公共施設の屋根や遊休地を活用し、地域で発電・消費する「地産地消型電力モデル」が注目されています。
また、災害時の非常用電源として機能する防災型太陽光+蓄電池の設置は、地域レジリエンスの向上にも貢献します。地元企業が出資する形の市民出資型PPAや、第三者所有+地域送電網活用といった形もあり、NonFITモデルは地域との共創によってますます広がりを見せています。
このように、NonFIT太陽光発電所は、用途・規模・立地条件・資金調達能力に応じてさまざまな導入形態が選べる点が大きな魅力です。FIT時代の「発電して売る」一辺倒の考え方から、「どう使うか・どう連携するか」を軸にした多様で戦略的な再エネ活用の時代が始まっています。
NonFIT太陽光発電市場の現状と直面する課題

FIT制度の縮小とともに登場したNonFIT太陽光発電所は、ここ数年で急速に導入が進んでいます。特に、自家消費型やオンサイトPPAを中心に、企業の電力コスト削減や脱炭素経営の文脈で注目度が高まっています。
2023年以降、企業のカーボンニュートラル対応が加速する中、NonFIT導入の件数は大幅に増加傾向にあり、【RE100加盟企業】【GXリーグ参画企業】を中心に、「制度に依存しない電力自立」が一つのトレンドとなりつつあります。とはいえ、この市場にはまだ多くの課題も存在しており、導入や運用の段階で慎重な対応が求められます。
1. 発電量の不安定性とエネルギーマネジメントの重要性
太陽光発電の最大の特性でもある天候依存性は、NonFIT運用において大きなリスク要因です。発電量が日射量によって左右されるため、安定した電力供給が難しく、需要と供給のギャップが生まれやすいという課題があります。
特にJEPX市場やFIP制度での売電を行う場合、需給ギャップによるインバランスリスクが発生し、コスト負担が重くなることがあります。そのため、以下のような対策が重要です。
- AIを活用した高精度な発電・需要予測
- 蓄電池との併用によるピークシフト
- エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入
これらを組み合わせることで、発電・消費・売電の最適化を図る体制づくりが不可欠です。
2. 初期投資負担と資金調達のハードル
NonFITモデルでは、FITのような「固定価格による安定収益」が見込めないため、プロジェクトファイナンスの組成難度が高い点も実務上の課題です。特に中小企業にとっては、自己資金やリース以外の資金調達方法を模索する必要があります。
一部の地方銀行や信用金庫では、脱炭素支援を目的とした再エネ特化型融資プログラムを展開していますが、実績が乏しい事業者に対しては審査が厳しい傾向があります。
また、以下のような支援制度も存在しますが、NonFIT単体での対象となるケースは限られています。
- 【環境省】地域脱炭素移行・再エネ推進交付金
- 【経産省】再生可能エネルギー主力電源化支援事業
- 【地方自治体】再エネ導入補助金(例:東京都ゼロエミ住宅補助 等)
これらを活用する際には、事前の制度調査とスケジュール管理が極めて重要です。
3. 電力の販売先確保と価格変動リスク
FITでは電力会社に全量買い取ってもらえましたが、NonFITでは売電先を自ら確保する必要があります。これが特にFIPや卸市場連携型では大きな障壁となります。
JEPX市場での売電は透明性がある反面、価格変動が激しいため、発電量と売電タイミングを適切に調整できなければ収益が不安定になります。また、売電先となる企業や自治体とのPPA契約には法的・契約的な専門知識が必要となるケースも多く、社内に専門人材がいない中小企業にとっては外部支援が必要です。
4. 環境価値の可視化と評価の難しさ
再エネの「電力」と「環境価値」は別々に取引される時代になっており、NonFITにおいては環境価値をどのように証明・活用するかが重要です。以下のような証書制度が広がっています。
- 非化石証書(FIT非化石・トラッキング付き)
- J-クレジット(再エネ由来CO₂削減価値)
- グリーン電力証書
ただし、これらを有効活用するには取得方法、費用、流通市場、証書の有効期限などの知識が必要であり、制度理解の浅さが逆に導入を遠ざける要因になっているケースも見られます。
5. 系統接続・出力制御の制限
地域によっては、系統容量の逼迫や出力抑制(出力制御)の頻発により、発電した電力を安定して送電できないリスクも存在します。九州や東北の一部地域では、実際に出力制御による売電停止が事業収益に大きな影響を与えるケースもあり、エリア選定の段階での系統接続可否の確認が重要です。
このように、NonFIT太陽光発電は自由度が高い反面、制度理解・技術導入・契約交渉・資金戦略といった多面的な対応が求められる事業モデルです。
成功の鍵は、事前の情報収集と専門家との連携、そしてリスクを見越した事業設計にあります。特に初期段階では、EPC業者・金融機関・アグリゲーター・地域行政との連携を強化することが、課題を乗り越える現実的なアプローチとなるでしょう。
NonFIT太陽光発電所の未来と技術革新の展望
今後、NonFIT太陽光発電所が普及・進化していくためには、技術と制度の両輪による支援が不可欠です。まず、パネル効率の向上や蓄電池の低価格化によって、より少ない面積・設備で高い発電能力を実現できるようになりつつあります。
加えて、AIやIoTを活用したエネルギーマネジメント(EMS)、需給予測・アグリゲーションビジネスなどが進展することで、より精度の高い運用と収益最大化が期待されます。
また、ESG投資やRE100といった国際的な枠組みを背景に、企業が再エネ導入を経営戦略の中心に据える動きも加速しています。非FIT型モデルは、企業が電力のトレーサビリティや環境価値を直接証明できる手段として、大きな価値を持ちつつあります。
NonFIT太陽光発電所の競争力を高めるための戦略

NonFITモデルが長期的に市場で競争力を維持するためには、次の3つの観点からの取り組みが重要です。
- 導入:AI・IoTによる発電予測、EMSによる遠隔管理により、運用効率と利益を最大化。
- 地域との連携:自治体・地域新電力・農業施設などとの連携による新たな地産地消モデルの確立。
- 環境価値の活用:J-クレジットや非化石証書を活用し、企業価値・ブランド価値の向上に結びつける。
これらの戦略により、NonFIT太陽光発電所は単なる発電設備を超えて、持続可能な社会基盤の一部としてその価値を高めていくことができます。
まとめ:NonFIT太陽光発電所が拓く新たなエネルギー戦略
FIT制度の終焉を迎え、再エネ事業者は新たな選択を迫られています。NonFIT太陽光発電所は、補助金や制度に依存せず、経済性・環境性・柔軟性を兼ね備えた次世代の再エネ運営モデルです。
その活用には課題もありますが、技術進化や社会的要請の高まりに支えられ、事業としての成熟が進んでいます。企業経営や地域エネルギー戦略の一環として、今こそNonFIT導入の可能性を再検討する時期に来ていると言えるでしょう。
脱炭素とエネルギー自立を見据え、NonFIT太陽光発電所を次なる成長の原動力に変えていくことが、持続可能な未来への第一歩となるのです。